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ドライプレス式パルプモールドはEPE・EPSに勝てるのか ― 欧米で加速する置き換えの実態と、採用のための実務ノウハウ

パルプモールドとEPE・EPSの緩衝材比較 ― 特徴・メリット・選び方のインフォグラフィック

緩衝材としての基本性能――衝撃吸収力、コスト、成形自由度――だけを比較すれば、EPE(発泡ポリエチレン)やEPS(発泡スチロール)が依然として優れているのは事実です。にもかかわらず、近年は環境規制やESG評価の高まりを背景に、欧米企業を中心に緩衝材をパルプモールドへ置き換える動きが急速に広がっています。本稿では「パルプモールドは発泡材より優れている」という単純な話ではなく、緩衝性能やコストで不利になる部分をどこまで理解した上で設計し、採用に踏み切るかという実務的な観点から、ドライプレス式パルプモールド・EPE・EPSの3素材を比較します。

ドライプレス式パルプモールドとは

ドライプレスは、抄造・乾燥させた紙材を金型で高温高圧プレスして成形する工法です。イヤホンケースや家電向けの緩衝トレーのように、製品を保持するリブや仕切り構造を持つ形状に多く採用されています。

ドライプレス式パルプモールド緩衝材の成形例
ドライプレス式パルプモールド緩衝材の成形例

3素材のメリット・デメリット

ドライプレス パルプモールド

メリット(EPE・EPSと比較して)

  • スタッキング性・省スペース性:薄肉のトレー形状で入れ子(ネスティング)状に重ねられるため、EPE・EPSのブロック材のように倉庫スペースを圧迫しません。
  • 環境対応:古紙を主原料とし、分別不要でリサイクル・生分解が可能です。
  • 金型費が安い:EPSに比べて金型費を抑えやすい傾向があります。
入れ子状に重ねやすいパルプモールドトレーの例
薄肉のトレー形状で入れ子状に重ねられ、保管・搬送効率に優れる

デメリット(EPE・EPSと比較して)

  • コスト高:量産単価では発泡材に見劣りする場合があります。
  • 緩衝性能が劣る:衝撃吸収力そのものはEPE・EPSに及びません。
  • 反発弾性が劣る:塑性変形すると形状が元に戻らないため、繰り返しの衝撃には弱い特性があります。
  • 重い:発泡材に比べ密度が高く、輸送コストに影響します。
  • 湿気に弱い:素材単体では耐水性がなく、高湿度環境では強度が低下します。
  • 抜きテーパーが大きい:金型からの離型のため抜き勾配を大きく取る必要があり、設計自由度が下がります。

EPE(発泡ポリエチレン)

EPE(発泡ポリエチレン)は、ポリエチレン樹脂を発泡させた緩衝材で、軽量かつ緩衝性能に優れる点が特長です。

メリット

  • 金型代がほぼ掛からない
  • 形状崩れが起きにくい
  • 緩衝性能が3素材の中で最も優れ、再現性が高い
EPE緩衝材の成形例
EPE緩衝材の成形例

デメリット

  • EPSより高い(パルプモールドと同等程度のコスト)
  • 嵩張る:保管・搬送効率がパルプモールドより劣ります。
  • 加工に人手が掛かる:ヒーターカットなどの手加工が必要になる場合が多くあります。
  • 環境問題:石油由来でリサイクルが進みにくい素材です。
  • 対象物への移行性がある:製品との接触面に成分が移行し、変色や曇りなどを引き起こすリスクがあります。
EPE緩衝材の成形例(複数コンパートメント)
EPE緩衝材の成形例(複数コンパートメント)

EPS(発泡スチロール)

メリット

  • 軽量
  • 緩衝性能が高い
  • 単価が3素材の中で最も安い

デメリット

  • 金型費がパルプモールドより高い
  • EPEに比べ脆い
  • ビーズ破片が飛び散る:成形・カット時にビーズが脱落し、精密機器内部への混入リスクがあります。

商品重量・生産量から見る適材適所

  • パルプモールドに向いている商品:~10kg程度の製品重量で、生産量が多いもの
  • EPEに向いている商品:10kg以上のより重量物で、高い緩衝性能を必要とする精密商品
  • EPSに向いている商品:5~20kgの製品重量で、生産量が多いもの

EPS・EPEからパルプモールドへ置き換えるための必須条件

性能面で見劣りする部分がある以上、パルプモールドへの置き換えには、お客様側にもご協力いただきたい条件があります。

  • G値基準の緩和
  • 緩衝距離(ストローク)制限の緩和
  • 再現性の妥協:緩衝材は「緩衝材自体が潰れることで製品を守るもの」であるという認識を持っていただくこと

パクトスの設計ノウハウ

パクトスでは、数多くのEPS・EPEからパルプモールド緩衝材への置き換えを手掛けてきました。3D-CADで綿密な設計を行い、なるべくコスト高にならない工夫をしながら、必要な緩衝性能を確保する工夫を積み重ねてきたノウハウがあります。お客様ごとの評価基準を丁寧に把握した上で、設計段階から試行錯誤を重ねています。

高速度カメラで見えない衝撃を見える化

落下試験時に製品内部で何が起きているかは、肉眼では確認できません。当社では高速度カメラを使い、落下前後の内部部材の変位量を定量的に可視化しています。下図は、現行品と提案品(パルプモールド化後)で落下試験を行った際の変位量比較で、約12mmから約8mm(-4mm)へと変位を抑えられた事例です。

落下試験による変位量比較(現行品と提案品)
落下試験による変位量比較(現行品:約12mm → 提案品:約8mm)

また、衝撃発生から数十ミリ秒の間の速度変化を複数ポイントで測定し、緩衝材が実際に製品をどのように保護しているかを波形データで検証します。

衝撃発生時の速度変化を示す測定グラフ
衝撃発生時の速度変化(複数測定ポイント)

綿密なG値の測定

落下方向(6方向)ごとにG値測定器を製品に取り付け、実際の梱包状態での衝撃加速度を精密に測定します。6方向すべてのデータを積み上げることで、パルプモールドに置き換えた際の緩衝性能を、感覚ではなく数値で裏付けます。

6方向のG値測定セットアップ
6方向からのG値測定セットアップ

まとめ:採用を検討する際のポイント

EPE・EPSは緩衝材としての基本性能でパルプモールドに勝ります。しかし環境規制・ESG要請の高まりを受け、欧米企業ではその性能差を理解した上で、G値基準や緩衝距離の緩和といったお客様側の協力も得ながら、パルプモールドへの置き換えを進める動きが加速しています。採用を検討する際に必要なのは、「パルプモールドが発泡材に全面的に勝る」という短絡的な理解ではなく、性能・コストで劣る部分をどう設計と実測データで補うかというノウハウです。パクトスは、3D-CAD設計・高速度カメラによる可視化・綿密なG値測定を組み合わせた検証体制で、そのノウハウを蓄積してきました。


自社製品の緩衝設計について、EPE・EPSからパルプモールドへの置き換えを検討したい場合は、お気軽にご相談ください。